DNDiは、研究開発(R&D)パイプラインを活用し、他の治療分野の薬剤の転用や改良、全く新しい化学物質を同定や開発の2方面から、新規治療法を創出することに力を入れています。
私たちは顧みられない病気で苦しんでいる人びとのために、安全かつ有効で手頃な価格の治療薬・治療法の開発に全力を尽くしています。パートナーと連携して、新規化合物の同定または開発に焦点を当てた19のプロジェクトに取り組んでいます。また、25以上の臨床試験を実施中です。


化合物
スクリーニングしている化合物

焦点を当てたプロジェクト
医療から取り残された人びとのために役割を果たす
私たちは、顧みられない病気で苦しむ人びとが切望する治療薬・治療法を開発し、
それらが必要とする人々に適した、利用可能で、入手可能な価格となるよう最善を尽くします。



シャーガス病
サイレントキラーを食い止めるための、より良い治療法を求めて
私たちは史上初の小児用治療薬を開発しました。また、新しい治療法を進歩させ患者の生活を改善するために、25カ国、400人以上の研究者のネットワークを構築しました。私たちのチームは現在、より安全で有効な治療薬を開発し、誰でもが検査や治療にアクセスできるよう活動しています。
シャーガス病は、壁や家具の隙間に潜む「サシガメ」と呼ばれる昆虫が吸血することによって媒介され、死に至る可能性のある寄生虫病です。感染後の慢性期に入ると自覚症状が乏しいため、「サイレントキラー」と呼ばれています。治療薬は半世紀前に発見された2種類しかなく、治療しなければ心臓や他の重要な臓器に不可逆的な障害を引き起こし、生命を脅かす可能性があります。ラテンアメリカとアメリカ南部に特有な風土病ですが、ヨーロッパ、日本、オーストラリアでも見られます。
現行の治療法は有効であるものの、8週間にわたる長期投与が必要で、時には重篤な副作用が発現することがあります。



COVID-19
研究を加速し、アカウンタビリティを求める
パンデミックが始まって以来、私たちはこれまでの経験を活かし、ネットワークを駆使して、COVID-19対策に貢献してきました。
DNDiのチームが以下のように取り組んでいます。
- 臨床試験のコーディネート 私たちの専門知識やパートナーのネットワークを活用し、ANTICOV臨床試験をはじめとする緊急に必要な臨床研究の策定および実施。
- 研究の促進・加速 パートナーとの連携し、COVID-19臨床研究が医療資源の限られた地域からの参加と、そうした地域の特定ニーズを満たす事を担保。「COVID-19 Clinical Research Coalition」の共同設立と主催についてもこの活動の一環。
- 治療薬候補の創出 COVID Moonshotプロジェクトを含む、軽症から中等症のCOVID-19および将来のコロナウイルスに対する治療薬候補の創出。
- COVID-19の研究開発が公共の利益に基づいて促進され、新しい医療ツールがそれを必要とするすべての人に行き渡るように、政府、産業界、研究機関のアカウンタビリティを提唱。



クリプトコッカス
髄膜炎
致命的な病気の治療を、
より簡単に受けられるように
私たちは治療をより広く提供するためのパートナーシップを構築し、より使いやすい治療法を開発しています。パートナーと協力し、アフリカ諸国のより多くの患者に救命治療を届けるための支援を行っています。
クリプトコッカス性髄膜炎は、壊滅的な影響を及ぼす真菌感染症です。この病気は、土壌や鳥の糞中によく見られるクリプトコッカス・ネオフォルマンスという真菌によって引き起こされます。ほとんどの人は、人生のどこかでこの微細真菌を吸い込む可能性がありますが、まず発症することはありません。しかし、進行したHIV患者は免疫力が低下しているため、特に発症しやすくなります。この真菌は、脳や他の臓器に侵入し、治療しなければすぐに死に至ります。
命を救う治療法はありますが、十分とは言えません。例えば、主要な治療薬であるフルシトシンは、クリプトコッカス性髄膜炎で何千人もの人が亡くなっている、アフリカのどの国においても登録されていません。この治療薬がある病院であっても1日に4回服用させるため、しばしば錠剤を粉砕する必要があります。これは、スタッフや患者にとって大きな負担となっています



皮膚リーシュマニア症
外観を損い、偏見を生む病気に対する、
より安全で短い治療法の開発
私たちは、子供にも大人にも安全かつ有効で、手頃な価格の患者にやさしい有望な新規治療法の研究開発を推進するとともに、最も被害の大きい国での研究体制の構築と強化を支援しています。
皮膚リーシュマニア症は、リーシュマニア原虫を持ったサシチョウバエに刺咬されることで感染します。貧困や栄養不良、避難、劣悪な住環境で苦しむ人々が、大きな感染リスクに晒されています。この病気では、顔などの露出した部分に皮膚病変が生じ、一生消えない醜い瘢痕が残るため、特に女性や子供にとっては深刻な社会的偏見をもたらします。
しかし、皮膚リーシュマニア症は命にかかわる病気ではないため、製薬企業、資金提供機関、地域の医療機関からはほとんど注目されていません。現行の治療薬は高価であり、アンチモン剤と呼ばれる毒性のある薬の、何週間もの痛みを伴う注射を必要とします。この薬剤は重い副作用があるにもかかわらず、60年以上も皮膚リーシュマニア症の治療に使用されてきました。



デング熱
気候変動の影響で急速に広がる病気に取り組むための、グローバルなパートナーシップの構築
私たちはデング熱流行国と提携して、デング熱の安全で手頃な価格の効果的な治療法の研究開発を進めています。このグローバルなコラボレーションを通じて、共同研究開発のパートナーと共に新薬候補の前臨床開発を推進し、最も有望な候補の臨床試験を実施しています。
デング熱は主にネッタイシマカに刺されることで広がります。 症状がない人もいますが、デング熱は、発熱、吐き気、嘔吐、発疹、目の痛みや筋肉、関節、骨の痛みなど、インフルエンザ様の症状を引き起こすこともあります。 デング熱の治療薬はなく、ワクチンの使用も限定されています。 治療の選択肢がないため、重症のデング熱を発症するリスクが高く、その場合、命を落とす可能性があります。
デング熱は世界で最も広域かつ急速に伝播している蚊媒介性ウイルス性疾患ですが、気候変動に加え、急速な都市化と人口増加によってその勢いがさらに加速しています。デング熱は、世界保健機関によって公衆衛生に対する脅威のトップ10の1つとして分類されています。
詳細(英語)


フィラリア症
失明の危機にある数百万人のための迅速な治療法の開発
4つの研究開発プロジェクトのポートフォリオにより、安全かつ有効な、現場に適した治療法の開発に向けて、新薬候補の前臨床開発を進めています。
フィラリア症は、吸血性昆虫の刺咬により伝播される寄生虫によって引き起こされる重い疾患です。河川盲目症(別名オンコセルカ症)は、流れの速い川に繁殖するブヨに繰り返し刺されることで感染します。このブヨが媒介する寄生虫は、激しい痒みや醜い皮膚病変を引き起こし、繰り返し感染すると、失明することもあります。サハラ以南のアフリカでは、何百万人もの人々が危険にさらされています。
フィラリア成虫を死滅させ、個々の患者の治療に使用できる治療法が早急に必要とされています。河川盲目症を撲滅するための現在のアプローチは、イベルメクチンの集団投与です。フィラリア症の罹患率の低下には成功していますが、この治療薬は仔虫のみを死滅させるものであり、人間の体内で10年以上生き続ける成虫を殺滅させることはできないため、このプログラムは10年から12年ほど継続する必要があります。



C型肝炎
安価な治療を心待ちにしている、数百万人のニーズに応える
安価な治療を心待ちにしている、数百万人のニーズに応える
私たちは簡便で安価な治療法を開発し、患者の命を救うための新しい戦略を試みてきました。また、「テスト・アンド・トリート戦略」の広範囲な展開に必要な政策提言にも取り組んでいます。
C型肝炎は、血液感染性C型肝炎ウイルスにより慢性肝疾患、肝硬変、癌を引き起こし、治療しなければ死に至る病気です。症状が現れるまでに数十年かかることもあるため、病気を患っているほとんどの人は自分が感染していることに気づきません。そのため、C型肝炎はサイレント・エピデミックと呼ばれています。
近年、C型肝炎に対する画期的な医療イノベーションが起こり、今ではわずか8~24週間の安全で簡便な治療で治癒できるようになりました。しかし、その恩恵を受けているのは、世界中でこの病気を患っている人々のわずか13%です。多くの国で、価格の高さがC型肝炎の完全な制圧を導くと期待されるテスト・アンド・トリート戦略の最大の障害であり続けています。



マイセトーマ(菌腫)
切断手術に代わる治療法を求めて
私たちは、世界初となるマイセトーマ(菌種)の臨床試験を実施し、全く新しい治療法の発見を目指しています。
マイセトーマは、進行の遅い感染症ですが、重度の障害を引き起こします。おそらく土壌や動物の糞から感染し、傷口からバクテリアや真菌が侵入するため、多くは足に発症します。真菌性菌腫には有効な治療法がなく、しばしば切断手術が唯一の解決策となります。現行の治療法では、12カ月という長期の治療を受けても、十分な効果が見込めません。また、薬剤の価格が高く、安全性にも大きな問題があります。
詳細(英語)



小児HIV(エイズ)
子供たちが服用しやすい新たな治療法の開発により、子供たちの命を救う
私たちは、治療しないと死亡するリスクが最も高い年少の子供たちのニーズに応えるために、服用しやすいイチゴ味の4種の抗HIV薬の配合剤を開発しました。現在、規制当局による承認審査中ですが、私たちは、パートナーたちとともに、必要としている何千人もの子供たちに迅速な治療を提供するために活動しています。
小児HIV患者の治療薬に対するニーズは、長い間、置き去りにされてきました。研究開発の取り組みにより、大人の命を救うための診断や治療のイノベーションには成功していますが、子供に対しては立ち遅れていました。
これまで、乳幼児や小児向けの唯一の治療薬は、苦みがあり、服用しづらく、冷蔵保存が必要なため、小児やその介護者には使いにくいものでした。幸いなことに、治療選択肢が限られていた数十年の時を経て、新しい小児用製剤がようやく利用できるようになりました。私たちの事業は、小児HIVの診断と治療におけるこうした革命の主要な一部となっています。



アフリカ睡眠病
致命的な熱帯病をなくすための新薬開発
私たちは、毒性があり、扱いにくい治療薬に代わる、簡易な経口治療薬により、アフリカ睡眠病の治療に革命を起こしました。現在、永続的な根絶を強力に促進する、たった1錠の服用で治療可能な新薬の臨床試験を進めています。
睡眠病(ヒトアフリカトリパノソーマ症)は、ツェツェバエが媒介する寄生虫によって引き起こされ、頭痛や発熱などの初期段階(第1段階)を経て発症します。第2段階では、寄生虫が中枢神経系に侵入し、睡眠障害、重度の精神神経疾患、痙攣、昏睡などを引き起こします。治療しなければ通常、死に至ります。
何十年もの間、睡眠病の唯一の治療法は、患者の20人に1人が副作用で命を落とすヒ素由来のメラルソプロールでした。



内臓リーシュマニア症
世界有数の殺人寄生虫に対する新世代治療法の開発
治療期間を短縮し、より安全で有効な治療を実現するために、私たちは既存の治療薬を用いた2つの新規治療法を開発しました。現在、この疾患のあらゆる病態に苦しむ人々を治療するために、全く新しい可能性を秘めた複数の治療薬候補から構成される前例のないポートフォリオを前進させ、標準治療法に革命を起こすための取り組みを行っています。
内臓型リーシュマニア症(別名カラアザール)は、発熱、体重減少、脾臓や肝臓の肥大化を引き起こし、治療しなければ死に至ります。HIV感染は病気の重症度を高め、内臓型リーシュマニア症で死亡するリスクが上昇します。
カラアザール後皮膚リーシュマニア症(PKDL)は、内臓リーシュマニア症の合併症で、内臓リーシュマニア症の治療が奏効してから数カ月または数年後に、発疹や皮膚症状として現れます。死に至ることはないものの、外観を損ない偏見を生じる可能性があります。
内臓型リーシュマニア症が蔓延している一部の地域で使用されている治療法には、忍容性が低く、治療期間が長く、毒性があり、痛みを伴い、コストがかかるものもあります。