
東京/ジュネーブ – 非営利の研究開発組織であるDrugs for Neglected Diseases initiative(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ:DNDi)は、世界で最も顧みられない熱帯病の一つである真菌性マイセトーマ(真菌性菌腫) を対象としたエーザイ株式会社(以下、エーザイ)との共同プロジェクトに対する、日本の公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(GHIT Fund)の新たな支援を歓迎します。
この病気の蔓延地であるスーダンにおいて、安全かつ有効で、投与しやすい新規治療薬としての抗真菌剤ホスラブコナゾールの承認申請と、患者がこの治療薬にアクセスできるようにするための準備に対し、GHIT Fundは2億9,600万円(200万ユーロ)の助成を決定しました。(助成期間: 2023年~2025年)
マイセトーマは真菌、もしくは細菌の感染が、皮下組織や筋肉、骨にゆっくりと広がり、重い障害を引き起こす疾患で、本プロジェクトは真菌性マイセトーマを対象としています。
「マイセトーマに罹患した人びとは何十年もの間、医学の進歩から取り残されてきました。これまでの治療法では、12カ月間にわたる投与を行っても治癒率が低く、手足の切断を余儀なくされることもしばしばでした」と、DNDiのマイセトーマ部門責任者のボルナ・ニャオケ博士は述べています。
「それだけに、新しい治療薬の良好な結果を示す臨床試験のデータを得た今、この深刻な病気で苦しむ患者のための治療薬開発に資金を提供する、数少ない国際的組織の1つであるGHIT Fundには深く感謝しています。」
DNDiは、日本の製薬会社であるエーザイ株式会社およびスーダンのハルツームにある、マイセトーマ・リサーチ・センターと共同で、真菌性マイセトーマ患者を対象とした世界初の無作為化臨床試験を実施しました。本試験は、エーザイが創製し、他企業と共同で爪白癬治療薬として開発した経口治療薬である「ホスラブコナゾール」の、真菌性マイセトーマ患者に対する安全性と有効性を評価することを目的とし実施されました。ホスラブコナゾールはin vitro実験で、スーダンで最も一般的な真菌性マイセトーマの病原体(Madurella mycetomatis)に対する、強力な活性を有することが示されていました。
このほど終了した同試験では、ホスラブコナゾールが良好な治癒率を示し、安全性にも問題ないことが確認されました。さらにホスラブコナゾールは、週1回の投与で安全性が高く、飲食物と一緒に服用しなくても体内への吸収が良いため、治療に大きな改善をもたらすことが期待されています。医師にとってマイセトーマ治療の選択肢が増えることは、この病気に立ち向かう上で非常に重要です。
本助成は、この新しい治療薬のスーダンの規制当局への承認申請および患者のこの薬へのアクセスに必要な準備を支援するものです。GHIT Fundは、2013年以降、シャーガス病、内臓リーシュマニア症、皮膚リーシュマニア症、真菌性マイセトーマなど、顧みられない熱帯病(NTDs)に対する数々のDNDiの研究開発プロジェクトを支援しています。
マイセトーマは、世界保健機関(WHO)が策定した「NTDs ロードマップ 2021-2030」が対象とする熱帯病の中でも、最も顧みられない病気の一つです。真菌性マイセトーマは、2022年にWHOの真菌優先病原体のリストにも含まれました。一般的に、劣悪な生活環境や医療サービスが届きにくい遠隔地に住む人びとが罹患します。真菌性マイセトーマが引き起こす外観の変形や障害は、偏見や社会的差別の原因となっています。そして、スーダンのマイセトーマ・リサーチ・センターで治療を受ける患者の20~25%が子供です。
マイセトーマに対する効果的な治療法の開発は、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」、特に2030年までにNTDsやその他の感染症の流行を終結させることを求めるSDGs目標3.3を達成するために欠かせません。本プロジェクトは、マイセトーマの治療における重大なギャップの解消を通じ、この痛ましいほどに顧みられない病気で苦しむ患者のニーズに応えるものです。
マイセトーマについて
マイセトーマはゆっくりと進行する慢性感染症です。細菌性と真菌性の2種類があり、外観の著しい変形、障害、重い病状を特徴とします。この病気は、偏見を引き起こし、患者に深刻な社会経済的な影響を及ぼします。また、多くの熱帯・亜熱帯地域で蔓延していますが、その発生率や有病率に関するデータは乏しいのが現状です。真菌性マイセトーマの治療には、副作用のある抗真菌剤を長期間服用する必要があり、さらに、切断を含む大規模な手術が必要となることも珍しくありません。
DNDiについて
Drugs for Neglected Diseases initiative(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ:DNDi)は、顧みられない人びとのために、安全で効果的、かつ安価な治療薬・治療法を発見、開発し、提供する非営利の研究開発組織です。DNDiは、アフリカ睡眠病 (別名ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症)、リーシュマニア症、シャーガス病、河川盲目症(別名オンコセルカ症)、マイセトーマ(菌腫)、デング熱、小児HIV、 HIV患者の重症日和見感染症 、クリプトコッカス髄膜炎、C型肝炎に対する医薬品を開発しています。また、子供の健康、ジェンダー平等、性差を考慮した研究開発、気候変動による影響を受ける病気などを研究開発上の優先事項としています。2003年の設立以来、DNDiは世界中の産官学パートナーと協力し、12種類の新しい治療薬・治療法を提供し、数百万人の命を救ってきました。www.dndi.org | www.dndijapan.or