DNDi 沿革
DNDi 沿革
顧みられない患者を救うために設立
世界中の顧みられない患者や医療従事者は、効果がない、または安全でない、または手が届かないほど高価な医薬品を使わざるを得ない、もしくは使用できる医薬品が全く開発されていない、という衝撃的な「ネグレクト(顧みられない)」の状況に直面していました。この課題に対応するため、2003年、複数の国際的な組織によりDNDi(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)は設立されました。
「医師にとって、患者を治療できる安全な選択肢がないことは最大の苦悩です」
- DNDi創設者、ベルナール・ぺクール医師
創設以来これまでに、私たちは死に至る6つの病気に対し、13の手頃な価格の治療薬・治療法を開発・提供してきました。数多くのパートナーの支援と協働に基づく非営利の研究開発(R&D)により、顧みられない患者たちに治療薬を届けることができることを証明してきました。
私たちは、現状への苛立ちを行動に変換することで、すべての人が科学的進歩の果実を享受できるよう取り組んできました。
感染症対策における日本のイニシアティブ
1998年のバーミンガム・サミット(英国)において、橋本首相(当時)による「国際寄生虫対策(橋本イニシアティブ)」がコミュニケに盛り込まれました。日本が国際保健分野でリーダーシップを発揮するきっかけとなり、後の「国際感染症対策」に発展しました。
医療活動の最前線で誕生
市場原理に基づく医薬品研究開発では、何百万もの顧みられない患者に対して安全かつ有効で手頃な価格の医薬品を届けることができず、不平等が拡大していました。医療・人道支援団体である国境なき医師団(MSF)は、ノーベル平和賞を受賞した時、その賞金の一部を不平等を解消する取り組みに充てることを決定しました。
日本政府による感染症対策へのコミットメント
G8 九州・沖縄サミットにおいて議長国である日本が、サミット史上初めて感染症を主要議題として取り上げたことで、感染症対策を含む保健問題への国際的関心が高まりました。また、その後の「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)」設立の契機となりました。
DNDiの創設者であり、当時国境なき医師団(MSF)で「必須医薬品アクセス・キャンペーン」の責任者だったベルナール・ペクール医師は、同年12月にサミットのフォローアップとして開催された「感染症対策沖縄国際会議」に出席し、顧みられない熱帯病に対する治療薬の研究開発の必要性を訴えるスピーチを行いました。
病気が蔓延している国と連携して誕生
国境なき医師団(MSF)や世界保健機関(WHO)のほか、ブラジル(オズワルド・クルス財団)、ケニア(ケニア中央医学研究所(KEMRI))、インド(インド医学研究評議会(ICMR))、マレーシア(マレーシア保健省)、フランス(パスツール研究所)の5つの国際的な研究機関により、顧みられない病気の治療薬・治療法を開発する非営利の研究開発組織としてDNDiが設立されました。
以来、DNDiは世界各地のオフィスを通じて、顧みられない病気の蔓延国の主導により、医薬品の研究開発の優先順位が適切に設定され、患者に寄り添うことができるように支援を行っています。
DNDi、日本での活動を開始
最も必要性の高い地域で研究開発のネットワークを構築
DNDiは、蔓延国の研究機関や疾病対策機関を結ぶネットワークであるリーシュマニア症東アフリカプラットフォーム(LEAP)を創設し、研究課題や臨床試験に共同で取り組めるようにし、リーシュマニア症制圧のための研究能力の向上に取り組んでいます。
アフリカ睡眠病(2005年)、シャーガス病(2009年)、皮膚リーシュマニア症(2014年)に対しても、同様のネットワークが設立されました。
日本におけるパートナーシップの始まり
北里研究所とアフリカ睡眠病を対象とした治療薬開発のための共同研究(スクリーニング)を開始しました。
非営利の研究開発モデルにより治療薬・治療法を届けることができることを証明
DNDiは、非営利の医薬品開発が成立することを実証しています。DNDiとそのパートナーは、特許のない新規抗マラリア薬ASAQ(アーテスネート・アモジアキン配合剤)を開発し、その後15年間にわたって5億件を超える治療を提供しています。
アフリカの医薬品製造業者Zenufaへの技術移転を2016年に完了。
毒性のある治療薬に代わる、より安全で有効な治療法の誕生
DNDiは、パートナーと共に、進行したアフリカ睡眠病に対する改良された治療法であるNECT(ニフルチモックス・エフロルニチン併用療法)を開発・提供します。実に25年ぶりの新規治療法です。
患者20人中1人を死に至らしめるほどの高い毒性を有するにも関わらず広く使われていた、ヒ素を有効成分とするメラルソプロールに、NECTが取って代わりました。
WHOはNECTを必須医薬品リストに収載し、NECTは症例数の減少に重要な役割を果たしています。
特定非営利活動法人としてDNDi Japan設立
顧みられない熱帯病(NTDs)に留まらず、顧みられない患者に照準
顧みられない熱帯病ではないものの、HIVに感染した子供たちの治療が取り残されていることに着目し、HIVに感染した子供たちの治療に向けた新たなプログラムを開始しました。
DNDiは、ダイナミックなアプローチによって公衆衛生ニーズの変化に対応し、新たな疾患領域に取り組むと同時に、設立当初からの「公益のための研究開発を通じた成果の提供」という目的を果たしています。
顧みられない熱帯病(NTDs)を制圧するための最も大規模、かつ世界的な取り組みに参画。
製薬企業13社、米国政府および英国政府、ビル&メリンダ・ゲイツ財団、世界銀行、および顧みられない熱帯病(NTDs)の蔓延国と共に、「ロンドン宣言」に署名します。顧みられない病気の制圧に必要な官民協力を促進し、世界中の10億人を超える人びとの生活を向上させることを誓いました。
顧みられない患者向けの革新的な医薬品の研究開発に取り組んで10年
創設から10年で、43カ国で350件を超える共同研究を実現し、25件の臨床試験を実施して、顧みられない病気に対する6つのより良い治療薬・治療法を開発すると同時に、蔓延国での研究能力を強化してきました。
DNDiとパートナーによる研究開発プロセスを詳細に分析すると、新しい治療薬・治療法は、 共鳴する資金ドナーからの支援による比較的少額な予算規模、画期的なアライアンス、および関係当局やパートナーの積極的関与によって十分開発できることが分かります。
日本発の世界初となる官民ファンド、GHIT Fundの設立
マラリア、結核、顧みられない熱帯病に対する医薬品開発に投資する、世界初の官民ファンドGHIT Fund(公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金)が日本で設立されたことで、DNDiと日本のパートナーとの協業にはずみがつきます。
オープンな協働モデルによる新たな取り組み
DNDiは、創薬ブースター(Drug Discovery Booster)プロジェクトを開始し、製薬企業8社の参画の下、リーシュマニア症およびシャーガス病の治療薬開発を目指し数百万もの化合物の同時探索を行います。
創薬ブースターは、これまで以上に効率的かつ低コストのアプローチです。重複を減らし、より多くの関係者をこの領域に引き込むことによって、研究開発プロセスを加速できる可能性を秘めています。
薬剤耐性(AMR)に対する新しいイニシアティブの始動
DNDiとWHOは、共同でグローバル抗菌薬研究開発パートナーシップ(GARDP(ガードピー):Global Antibiotic Research & Development Partnership)を創設して、増大する薬剤耐性菌感染症の脅威に取り組みます。
当初は性感染症、新生児敗血症、入院中の成人患者および小児患者における感染症に重点を置いていたGARDPは、DNDiによる3年間のインキュベーション(起業支援)期間を経て、2019年から独立した組織として運営が始まりました。(法人登録(スイス)は2018年)
マイセトーマ(菌腫)患者に対する世界初の臨床試験
WHOの顧みられない熱帯病リストに追加されたことでマイセトーマの認知度が高まったことを受け、DNDiとパートナーは、この真菌性感染症に罹患した患者に対して世界初かつ唯一の臨床試験を開始します。
アフリカ睡眠病に対する治療の革命
DNDiとパートナーは、フェキシニダゾールの提供を開始します。
DNDi創設当初、患者20人中1人を死に至らしめていたヒ素を有効成分とする毒性のある治療薬に代わり、医師は今や安全かつ有効な経口治療薬を処方できるようになりました。
フェキシニダゾールによって、長期的な入院の必要がなくなり、保健システムの負担が軽減されるとともに、アフリカ睡眠病を撲滅できる見込みがますます高まっています。
日本における顧みられない熱帯病(NTDs)コミュニティの発足
長崎大学熱帯医学研究所により、日本国内におけるNTDsに関わる個人や団体、組織が連携できる仕組みとして、Japan Alliance on Global NTDs (JAGntd) が設立されました。DNDi Japanも運営委員の一人としてJAGntdの活動に参画しています。
新型コロナウイルス感染症:露呈した医療イノベーションとアクセスにおける慢性的な欠陥
DNDiは、人的・物的資源が限られた環境で有望な治療薬・治療法を開発するためのコンソーシアムを立ち上げ、新型コロナウイルス感染症および将来のコロナウイルス感染症に対する新しい治療薬候補を特定するためのオープンで協働型の創薬研究を主導します。
DNDiは、イノベーションを促進し、すべての人びとが科学的進歩の果実を平等に享受できるような政策を後押ししています。
南南協力を通じて手頃な価格のC型肝炎治療薬を提供
DNDiは、エジプトとマレーシアのパートナーと共に、C型肝炎治療薬として安全かつ有効で手頃な価格の直接作用型抗ウイルス薬ラビダスビルの提供を開始しました。ラビダスビルは現在WHOの必須医薬品リストに収載され、治癒率97%を達成しました。それは、ジェネリック医薬品の供給がない国々での手頃な価格での治療の実現につながっています。
リーシュマニア症の簡便な経口治療薬の開発に向けて
DNDiとパートナーはさらに、既存の治療薬をベースにした、これまでより治療期間の短い2つの治療法を提供する一方で、この寄生虫病の検査および治療へのアクセスの拡大を目指しています。
創薬の初期段階における長年の取り組みを経て、安全かつ有効で簡便な経口治療薬となる可能性のある有望な新規化合物を有する、世界最大のポートフォリオが形成されました。
ルイス・ピサロ医師、ベルナール・ぺクール医師の後任としてDNDi代表に就任
ルイス・ピサロ医師が、ベルナール・ぺクール医師の後任としてDNDi代表に就任しました。
ぺクール医師のリーダーシップの下、創設時スタッフ4名であったDNDiは、数百の官民パートナーと連携する国際的な非営利の研究開発組織へと発展を遂げ、死に至る6つの病気に対して12の新規治療薬・治療法を提供しました。
デング熱アライアンス(Dengue Alliance)を開始し、気候変動の影響を受けるデング熱に対する治療薬の開発を加速。
この世界的な研究パートナーシップは、デング熱流行国の研究機関が主導しています。デング熱という気候変動の影響を受けやすい疾患に対し、手頃な価格で利用しやすい治療薬・治療法を開発するべく取り組んでいます。
デング熱アライアンスには、タイ、インド、ブラジル、マレーシアからパートナーが集結し、国際保健上10大脅威の1つとなっているデング熱に対する治療薬の研究開発を進めています。
アフリカ睡眠病の持続可能な制圧に向けた支援の強化
2009年にDNDiによって特定されたアコジボロールは、DNDi自らが主導するリード化合物最適化プログラムから生まれた初の新規化合物です。
アフリカ睡眠病(ガンビア・トリパソノーマ症)患者を対象としたDNDiの第II/III相試験の有望な結果が2022年11月に発表されました。これを受けて専門家は、同剤の単回投与による新治療を導入することで、この疾患を持続可能な形で制圧していくことを目指しています。
ロンドン宣言の後継となる「キガリ宣言」への署名
DNDiや日本政府を含む世界中の産官学民のステークホルダーは、ロンドン宣言の後継となる、顧みられない熱帯病(NTDs)の制圧に向けたコミットメント、「キガリ宣言」に署名しました。
設立20年、250のパートナー、13の治療薬・治療法、28カ国
DNDiは、非営利の医薬品研究開発組織として20周年を迎えました。その間に、死に至る6つの病気に対して13の治療薬・治療法を開発・提供し、世界中で活動を展開してきました。現在、9つの疾患領域で40を超えるプロジェクトが進行するダイナミックなポートフォリオを有し、28カ国で臨床試験が進行中です。