
非営利で医薬品研究開発に取り組む、DNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative:顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)はこのほど、国内3大学(北里大学、長崎大学、東京大学)とのシャーガス病に対する天然物由来の新薬候補化合物の共同探索プロジェクトに対する、公益社団法人グローバルヘルス技術振興基金(以下「GHIT Fund」)による約1,590万円(約10万ユーロ)の資金支援が決定したことをお知らせします。
WHOによると、現在世界中でおよそ600万人がシャーガス病に感染しているとされています。顧みられない熱帯病の一つであるシャーガス病は、生命を脅かす可能性のある病気でありながら、治療の選択肢は非常に限られており、そのような治療法でさえ満足のゆくものではない状況です。
2025年3月から開始された18カ月間の本プロジェクトにおいて、北里大学、長崎大学、東京大学およびDNDiはそれぞれの専門を活かして、微生物培養抽出物コレクションにおけるシャーガス病を引き起こす原虫※であるトリパノソーマ・クルージに対しての活性を評価し、薬剤候補の起源となる新規のシャーガス病治療薬シード化合物を少なくとも5つ同定することを目指します。
また、プロジェクトの過程で同定されるシャーガス病治療薬シード化合物は、内臓リーシュマニア症を引き起こすリーシュマニア原虫に対する活性も評価して治療薬としての可能性を検証します。リーシュマニア症も顧みられない熱帯病の一つであり、安全で有効、かつ服用しやすい治療薬が求められています。
これまでのシャーガス病の治療法を見つけるための新たなシード化合物の探索は、化学合成から得られた化合物のスクリーニングが主で、微生物由来天然物の化学的な探索は精製および活性評価を反復する煩雑なプロセスを経る必要があることから殆ど実施されてきませんでした。そのため、未だ探索されていない微生物由来天然物からシャーガス病の治療薬シードを探索する点がこのプロジェクトの大きな特徴です。
【各組織の役割】
北里大学:プロジェクト全体の調整と天然物の抽出と精製、構造決定を担当します。
長崎大学:北里大学が調製する微生物培養抽出物、精製画分および見出されたシード化合物のシャーガス病を引き起こす原虫に対する活性を評価します。
東京大学:見出されたシード化合物についてリーシュマニア原虫に対する活性を評価して内臓リーシュマニア治療薬としての創薬ポテンシャルを検証します。
DNDi:専門的見地から助言を行います。
シャーガス病はラテンアメリカの21カ国で重要な公衆衛生上の問題となっており、グローバル化や人々の移住に伴い、非流行国でも感染の懸念が高まっています。既存のシャーガス病の標準治療薬は、治療期間の長さ(60~90日)や重篤な副作用による高い治療中断率の他、重篤な慢性症状を持つ患者における有効性も示されていません。また未だ有効性を示すワクチンもありません。そのため、高い有効性と安全性を備え、より治療期間が短く、患者が服用しやすい経口治療薬の開発が喫緊の課題となっています。
※寄生虫のうち単細胞のものは原虫げんちゅう、多細胞のものは蠕ぜん虫ちゅうと分類されています
DNDiについて
Drugs for Neglected Diseases initiative(顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ:DNDi)は、顧みられない人びとのために、安全で効果的、かつ安価な治療薬・治療法を発見、開発し、提供する非営利の研究開発組織です。DNDiは、アフリカ睡眠病 (別名ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症)、リーシュマニア症、シャーガス病、河川盲目症(別名オンコセルカ症)、マイセトーマ(菌腫)、デング熱、小児HIV、 HIV患者の重症日和見感染症 、クリプトコッカス髄膜炎、C型肝炎に対する医薬品を開発しています。また、子供の健康、ジェンダー平等、性差の考慮、気候変動の影響を受ける病気などを研究開発上の優先事項としています。2003年の設立以来、DNDiは世界中の産官学パートナーと協力し、13種類の新しい治療薬・治療法を提供し、数百万人の命を救ってきました。www.dndi.org | www.dndijapan.org
【本プレスリリースに関するお問い合わせ】
DNDi Japan 広報担当 野田 葉子
ynoda@dndi.org/ 電話: 070-4465-5453
Photo credit: Xavier Vahed-DNDi