ピサロ医師は、DNDiが推し進める「グローバルサウス(顧みられない病気が蔓延する低中所得国)」の研究開発における主導的な役割の拡大に向けた舵取りを、前代表のベルナール医師より引き継ぎます。
2022年9月5日/ジュネーブ – チリ系フランス人であり、グローバルヘルスの専門家であるルイス・ピサロ医師は、国際的な非営利の研究開発組織であるDNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative: 顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)の新しい代表(エグゼクティブ・ディレクター)に就任しました(9月1日付)。ピサロ医師は、19年前に同組織を創設し、前代表であるベルナール・ペクール医師の後任となります。
DNDi は2003年、国境なき医師団(MSF)、世界保健機関の熱帯病医学特別研究訓練プログラム(WHO-TDR)、オズワルド・クルス財団(ブラジル)、インド医学研究評議会(インド)、ケニア中央医学研究所(ケニア)、マレーシア保健省(マレーシア)、パスツール研究所(フランス)によって、スイス・ジュネーブに本部を置く非営利財団として設立されました。この背景には、MSFが1999年に受賞したノーベル平和賞の賞金の一部を、顧みられない病気で苦しむ人びとのための治療薬・治療法の研究開発を行う、全く新しい非営利モデルの実現に充てるとした決定がありました。
以降 DNDi は、6つの致命的な顧みられない病気に対する12の新しい治療薬・治療法を開発し、患者に届けてきました。37の国籍から成る 250人以上の職員を擁し、アフリカ、東南アジア、東アジア、北米および中南米に9拠点を構える DNDi は、200以上の官民パートナーとの世界的協働および南南協力を率いる国際組織です。
チリに生まれフランスで学び、西アフリカおよび中央アフリカで数年にわたって医療プロジェクトを牽引してきたピサロ医師のリーダーシップの下、DNDi は2028年までにさらに13の新規治療薬・治療法の開発を実現し、気候変動の影響を受ける病気への取り組み、小児向け医療を対象とするイノベーションの強化、ジェンダーに配慮した研究開発の推進、ならびに新しい研究や医療技術の恩恵が最も医療から取り残された人びとにまで拡大されることの徹底などにより、イノベーションとアクセス確保に寄与する公平なシステム構築の支援に尽力します。
「私は、この新しい責務を引き受けることを非常に誇りに思うと同時に、高ぶる気持ちを抑えきれません」とピサロ医師は自身の心情を語りました。「気候変動から経済不安に至る、現在直面している世界中の無数の課題は、今後も地球に暮らす最も脆弱な人びとに最も負担を及ぼし続けるでしょう。すでに、デング熱などの気候変動の影響を受ける病気の増加を目の当たりにしています。そして、現在の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックは、世界人口の大半が医療イノベーションの成果を享受できないままであることを浮き彫りにしています。これまでにもまして、DNDi のような患者中心の非営利の新薬開発モデルの必要性が叫ばれています」。
研修医であったピサロ医師は、2007~2019年、西アフリカにおける HIV、妊産婦保健、その他の感染症治療へのアクセス改善に取り組む国際保健のNPO、Solthis の初代 CEO を務めました。そして2020年には、ユニットエイドの執行チームに加わり、同組織の HIV ポートフォリオや関連アクセスプログラムを統括しました。また、パリ政治学院のグローバルヘルス担当科学アドバイザーとして、さらにシダクション(フランスでエイズ蔓延防止に向けて活動を行っている団体)の役員として、グローバルヘルス2030シンクタンクの創設者兼メンバーに就いています。
「ピサロ医師は、脆弱な人びとがもっと医療を受けられるように改善するための長年にわたる優れたリーダーシップ、グローバルヘルスにまつわる深い専門知識、共通のビジョンを追求する上で志を同じくする利害関係者をまとめようとする熱意を DNDi にもたらしてくれます」と DNDi理事長のマリーポール・キニ―博士は述べています。「彼は、DNDi を新たな次元に導く上で類まれな資質の持ち主であり、私たちのミッションを実現し、組織の進展を促進する戦略的連携を強化するために、ともに取り組んでいきたいと思います。また、理事会を代表して、DNDi を今日の影響力の強い製品開発パートナーシップ(PDPs)へと発展させたペクール医師の並外れたリーダーシップと多大なる貢献に感謝の意を表明します」。
ペクール医師のビジョンとリーダーシップの下、DNDi は、アフリカ睡眠病やリーシュマニア症といった顧みられない病気、あるいは HIV を患う幼い子どもや乳幼児向けに12の新たな治療薬・治療法を創出しました。さらに、学術分野、公的研究機関、およびそれまで顧みられない病気にはほとんど関心を示さなかったグローバル製薬企業との、強固で効果的なパートナーシップを確立し、利益ではなく患者のニーズを重視した新しい新薬開発モデルが実現可能であることを実証してきました。
「私は喜んでピサロ医師にバトンを渡したいと思います。彼は、私たちの『最初の25年間で25の新しい治療薬・治療法』を開発するという目標を達成できるよう導いてくれると確信しています」とペクール医師はピサロ医師への期待を語ります。「この野心的な目標を達成するために、DNDi はこれからも南南協力や地域の枠を超えた協働を促進し、低中所得国発のイノベーションを取り込み、病気が流行している地域における臨床研究ネットワークを強化していきます。彼はこうした取り組みを先導するのに理想の人物です」。
【ルイス・ピサロ医師略歴】
ルイス・ピサロ医師はチリ系フランス人医師にしてグローバルヘルス分野のリーダーです。彼はまた、パリ政治学院のグローバルヘルス担当科学アドバイザーとして、さらにシダクション(フランスでエイズ蔓延防止に向けて活動を行っている団体)の役員として、グローバルヘルス2030シンクタンクの創設者兼メンバーに就いています。
西アフリカで数年にわたって医療プロジェクトを牽引し、2007~2019年、Solthis(西アフリカにおける HIV、妊産婦保健、その他の感染症治療へのアクセス改善に取り組む国際保健のNPO)の初の CEO を務め、同組織を国際的な団結した医療組織へと発展させ、西アフリカおよび中央アフリカの医療における有数のリーダーとなりました。そして2020年、ピサロ医師は新型コロナウイルス感染症の危機の最中にユニットエイドの執行チームに加わり、同組織の HIV ポートフォリオや関連するアクセスプログラムを統括しました。
チリで生まれ、パリ大学で研修を受けた医師であると同時に、パリ政治学院で政治学の修士号、さらに、EHESP School of Public Health、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(London School of Economics)、ESCP European Management Schoolの共同プログラムにおいてEMBA(executive health MBA)を取得しています。
DNDiについて
DNDi(Drugs for Neglected Diseases initiative: 顧みられない病気の新薬開発イニシアティブ)は、シャーガス病、アフリカ睡眠病 (別名ヒト・アフリカ・トリパノソーマ症)、リーシュマニア症、フィラリア感染症、マイセトーマ (菌腫)、小児HIV、およびC型肝炎などの「顧みられない病気」に苦しむ人びとのために、新規治療開発に取り組む非営利の研究開発組織です。アフリカの新型コロナウイルス (COVID-19) 軽症/中等症患者の重症化を抑制する治療法特定のために、ANTICOV臨床試験にも携わっています。
2003年の設立以来、内臓リーシュマニア症 (別名カラ・アザール) のための一連の併用療法、2種類の固定用量抗マラリア薬、および新規化合物からの開発に初めて成功したフェキシニダゾールなどを含む、12の新たな治療を開発し、患者に届けてきました。フェキシニダゾールはアフリカ睡眠病の両ステージに有効な治療薬として2018年に推奨されました。詳細については、www.dndi.orgをご覧ください。
<報道関係問い合わせ先>
特定非営利活動法人DNDi Japan
野田 葉子
E-mail: dndicommtokyo@dndi.org
Tel: 050-3395-8967
Photo credit: Kenny Mbala-DNDi